final D8000 Pro Edition【Review】

yuki3.hatenablog.jp

この記事でD8000→Proへの入れ替えを報告して音質レビューは先送りしましたが、ようやく取り掛かります。

そもそも何故Proに入れ替えたのか?

これは私の音の好みが少しずつ変化してきたことが背景にあります。ただしD8000を購入した翌年にProが登場した2019年の時点では、それほど興味を示していなかったことも事実です。Proがレンジの狭いPOPS向けのチューニングと宣伝されていたこともあり、クラシックに傾倒し始めていた私はD8000の方が適しているだろうという思い込みがありました。

音質の傾向からしても、迫力ある低域を軸にしたピラミッドバランスに魅力を感じていたD8000から、-6db下げてフラットにしてしまってはその長所が隠れてしまうのでは・・・というイメージを持っていました。

音の嗜好の変化について

D8000導入直後~2021年頃までは、クラシック音楽のレパートリーを広げていった時期とも重なっていて、この充実した低域とレンジの広い録音向けのチューニングが自分の求める音と上手く一致しているように感じていました。やはり編成の大きな楽曲に関しては今でもD8000が一番だと思います。ただし私は交響曲をあまり好まず、編成が大きめな曲といえば協奏曲を中心に聴いていました。

今でもコンチェルトは良く聴きますが、次第に室内楽へ主軸を移していくようになると今度は低域の盛り上がりによる副作用が気になるようになってきました。低域の押し引き自体は素早く尾を引かないけれど、音場全体が薄く靄がかかる傾向がありました。遠目のピントに合わせた時のスケール感の演出には優れていますが、焦点を手前に合わせた時の解像感が僅かに足らないのです。

また、この充実した低域が「全体と上手く溶け合わない」場面があります。生楽器だけでなくVocalが重なってくる場合には顕著な現象で、また声の質感そのものにも僅かに硬質な張りが感じられます。

このような「気になるポイント」が徐々に蓄積された段階で、「今の私にはProの方がフィットするのではないか」と考えるようになり、約5年振りのヘッドホン更新を決断しました。

final D8000 Pro Edition【Review】

*シルバーコートケーブルではなくオーディオみじんこ「NOCTURNE」と接続した音のレビューとなっていますが、基本的な傾向としては外していないはずです

低域の迫力は削がれて量感は並~やや少なめレベルまで抑えられます。とはいえ基礎的な技術はAFDSをそのまま引き継いでいるので、ローエンドは足切りされずにしっかり再現されてます。空間の広がりも一回りコンパクトに。その代わり、D8000で感じた上記のネガが解消されて、より「優等生」なバランスになりました。

決してD8000とProでクオリティの上下関係があるプロダクトではない(価格差は付属するシルバーコートケーブル)のですが、個人的にはProの方が丁寧な描写で質感が肌理細かな印象を受けます。Vocalの微妙な張り・硬さが取れて、よりしっとりした質感に。

音像の距離感はD8000とProで同じ位置をキープしていますが、やはり個々の奏者のディテールを拾い上げる能力はProの方が高いです。この音のバリエーションの違いを、ほぼAFDSのチューニングによって実現したことは今でも凄いなと思っています。

装着感について、世間的にはイヤパッドのグリップが増したことで側圧が強く感じられるProの方が不快であるという声が目立ちますが、私の場合は逆でした。D8000はスベスベした表面処理に加えて、パッドのスポンジが中で動きやすい構造になっており装着位置が微妙に定まらないのです。ピタッと吸い付くProの方がむしろ軽く感じます。

私がD8000シリーズを長く愛用する理由

このProは中古個体ではありますが、少なく見積もっても3年は使い続ける気でいます。ということはDシリーズについて通算7~8年は通すわけです。D8000、そしてPro Editionでは帯域バランスとそれに付随する細かな違いこそありますが「音触」はほぼ同じと言って問題ないでしょう。「そんなに同じ音を聴き続けて飽きないのか」と思われるかもしれません。

私の回答としては「飽きないことより、違和感を覚えないことの方が大事』なのです。

「違和感が無い」ことの重要な要素は大きく分けて2つ。

①質感と色温度

これは過去のエントリーや私のtwitterで散々語ってきた内容なので省略します。

②全体のスケール感と、細部のフォーカス感のバランス

今日の中心的な議題はこれです。D8000は全体のスケール感に意識が向くチューニングであり、Proはより細部を聴き取ろうとするリスニングスタイルに変化しますが、その細部の各音のフォーカスがキリリと引き絞られてはおらず、あくまで鳴り方そのものは穏やかな基調をキープしています。それでいて非常に細部を隅々まで見通せる解像度の高さを両立している。このバランス感覚が秀逸であると私は思っています。

Focal UTOPIAの初代はあまりにも細部のフォーカスが目立ちすぎ、ブライトな背景照射も加わりとても落ち着いて音楽を聴くような気になれませんでした。

*D8000導入前にフォロワーさんからお借りして2週間自宅試聴した結果。前身ブログに記録するも消失

その後、UTOPIA SGの登場によってこのバランスは大分改善されました。個人的な好みから言えばまだ質感は硬めで距離感が近い印象はありますが、基礎的な性能及び環境への追従能力は現状finalを抜いてFOCALがトップだと思います。2~3年内に他社製品で注目すべき製品が現れなければ、やはり次はUTOPIA SGを経験しておこうという今後のプランを立てています。

その他のメーカーでは、ハイエンド価格帯であっても厳しい目で見るとそもそもの全体のスケール感に乏しいか、または細部のフォーカスに注意を向けるほどの十分な解像度が得られていない例が多かったです。FOCAL以外のメーカーについては、数年内に1ランク以上のレベルアップを期待したいところ。各社とも何か1点に特化しつつも他の要素がカバーできていない印象があります。

∴ DCA Expanse

歪みを極力排除した音。静的特性は優秀なのだろうが音楽的に楽しくない。質感の描き分けが苦手。Mezeも同じ傾向があるが、「柔らかい音しか出せない」タイプ。

レンジは狭めで、細かい描写はそれなりの能力はある(が、それと分かりにくい)。

∴ MEZE Elite

DCAより音色が華やかで明るく、個人的には好きなタイプ。低域の軽さが弱点。

その他の基礎性能も他社ハイエンドラインから1ランク落ちる。

∴ HiFiMAN SUSVARA

非常に能率が低く(84db)アンプを選ぶのがネックとなる。

平面駆動型にありがちな「中央の圧が弱い」音ではない。D8000もそういう点が気に入っているし、加えてSUSVARAには独特な音色の魅力がある。レンジの広さ、基礎性能も良い線を行っている。興味はあるが、「自宅環境で満足に鳴らせるか」が懸念で手が伸びない。

YAMAHA YH-5000SE

強烈な高音に耳が耐えられるかに尽きる。低音もシャープかと思いきや、こちらは案外に緩い。

湿度感の概念がないガリガリに乾いた音で、ひたすら細部に意識が向くが果たしてこれは本当の意味で「解像感」と呼べるのか疑問。音楽の「生気」が失われている。

D8000 Proを聴くと、そのバランス感覚の良さに安心する

実例を挙げた他社機種は、Focal UTOPIA SGを除いて何かしらの「アンバランスさ」が隠せないのです。

  • 柔らかい音しか出せず硬い音の表現が出来ない(YAMAHAはその逆)
  • 全体のスケール感もしくは微細領域の解像感が不足する
  • 帯域バランスに問題がある(低域の下支えが弱い , 高域過多)

HiFiMAN SUSVARAは、全体的に結構良い線を行っているのですが能率が極端に低く環境を選びます。

D8000 Pro Editionを総合的に勘案すると、

  • D8000より中高域の分離、解像度が向上し、表現も丁寧でしっとりした質感に
  • 低域の盛り上がりは均されたが、最低域の下支えが確保されていて全体の充分なスケール感がある
  • (UTOPIA SGには及ばないが)意識すれば細部のフォーカス感も不満がないし、殊更にそれを強調しないバランスの良さを持っている

というまとめで締めたいと思います。同じfinalなら「X8000」の登場が今後気になるでしょうが、D8000シリーズもまだまだ全然良いですよ、というレビューでした。