試聴機会に恵まれなくとも、YAMAHAのネームバリューはやはり強い
話題のYAMAHA平面駆動型フラッグシップですが、デモ機がようやくeイヤ・フジヤさんに到着しました。何度か試聴会は催されるも非常に人気で予約は瞬殺、聴けても一般的なノートPCトラポからRMEのADI-2ヘッドホンOUT直なので、これを購入しようと本気で検討しているような人は正直判断が難しいだろうと思っていました。
今日はYAMAHA YH-5000SEの試聴会なので家族行事で行けない私は皆さんのインプレ楽しみにしていたのですが、試聴会のシステム構成があまりにもプア過ぎて呆れた。
— kanata (@Thinking_Audio) 2022年11月19日
無対策ノートPCにこのクラスのDACのヘッドホンアウトって…
50万のヘッドホンの音質を判断して貰うのにこの構成は正直舐めすぎでは? https://t.co/aOjsu9Un6s
期待の裏返しなのか、不満を募らせるkanataさん・・・
元々の生産数が少ないからでしょうが、それでも発売前の先行予約は一晩で埋まりました。今から予約購入しても納入は3月頃でしょう。何か霞を掴むような実体の見えない感じが、私から見れば異様にも映りました。
Earmen Tradutto (RCA Out)→RE・LEAF E3 dC (Gain +6db , Current mode , 6.3mm)
まずこの構成で試聴しました。自宅のメインアンプであるE3 dCの電流駆動モードはヘッドホンとの相性問題が激しいので、まずその点を把握する必要があります。
意外と音量が取りにくいです。今日は録音レベルの小さいクラシックは聴きませんでしたが、もしかしたら不足するかもしれません。
率直に言えばYH-5000SEは個人的な好みからは完全に外れています。温度感が非常に低い、ドライな傾向でした。デモ機到着から日が浅いので、まだ音がこなれていない可能性はあります。それでも基本的な傾向として、ここからウェット&ウォームに変化することはありえないでしょう。
DCA EXPANSEのような、色温度は青に寄ったクール系でも質感はウェットで、ヌルっとしたスムースさを持つサウンドではないです。YH-5000SEは一聴して分かりやすい高解像感を提供してくれる、シャープでソリッドな音像表現でした。あまりこういうタイプの平面駆動型は今まで存在しなかった印象があります。繊細だけど大人しい、低音の量感が少ない(D8000を除く)というのが平面駆動型のよくある傾向です。
なのでシャープ・クール・ソリッド系で、大人しくない「音が立つ」タイプの平面駆動型が今まで世に出ていなかったが、自分はそういうのが欲しかったという人には勧められると思います。dCS Bartok DACのような音が好きな人は向いているでしょう(これを組み合わせてしまうとやり過ぎな気はします)
内省的な表現力は後日フジヤさんで判断します
子音やブレスが目立ちすぎて声の内省的な表現力を受け取りにくい帯域バランスでした。表面的な高解像感や音の立ち上がりの速さはすぐに分かりますが、価格からすればもう少し繊細さ、テクスチャーの滑らかさが欲しいところです。
しかしこれはDACのTraduttoがだいぶ加担しているようで、試しにSHANLING M8の4.4mmバランス(Turbo Gain)で聴いてみると、オーディオ的な諸性能はDAP直なので物足りないのはともかくとして、高音の立ち方はギリギリ聴ける範囲には収まっていました。
初手の試聴ではE3 dCとの相性問題の確認を優先したので、それ以降の細かい部分の把握は後日改めてフジヤで試聴してきます。eイヤの常設DACはRME , Earmen , Benchmarkと、どれも似た傾向なのでここで判断は難しいです。
無試聴で先行予約しなくて良かった・・・
何か話題性が先行して十分に試聴できないまま予約された方がそれなりにいそうな気配です。結構好みが分かれる音なので、余計なお世話なのは承知で「大丈夫ですか?」と聞きたくなる次第。
P.S. 2022.12.25
フジヤさんのMSBシステムで再試聴
昨日のeイヤでの試聴では、ポテンシャルは十分に発揮できていないことが分かりました。ハイエンドヘッドホンにおいても、いくつか「環境の粗を目立たせない」機種はありますが、YH-5000SEは容赦なく描き出す機種のようです。駆動力も重要ですが、私が推測しているのは「電源環境」により敏感に反応するのではないかと。
それは昨日のeイヤでの試聴で、自前のDAP直の方が(比較して情報量の物足りなさは感じるものの)うるさくない、ごちゃっとせずに整然とした鳴り方をしていたから。
eイヤの据置試聴コーナーは、タコ足配線で市販の適当なOAタップから電源を取っています。フジヤエービックはPS Audioのクリーン電源(型番は失念)です。この差が確実に出ていると感じます。
裏を返せばそこまでユニットが高性能であるということです。もう5年以上前になりますが、初代Focal UTOPIAをヘッドホン祭で整理券取って試聴した時の暴れ馬っぷりを思い出します。YH-5000SEはあの時ほどの衝撃はないものの、どこか似た雰囲気を感じます。
粗を隠すタイプは環境に合わせやすいですが、伸びしろがどこまでも無限にあるものではなく、どこかで壁にぶち当たります。Meze Empyrean等。(音色面では私が一番評価しているヘッドホンです。あの美音は他にない)
電源ノイズに埋もれて見えなかった部分が晴れた状態で聴いた印象では、YH-5000SEはこの音なら性能的には価格に疑問のある人はそういないと思います。D8000と双璧をなすレベルにあると感じました。それでいて、音の好む方向性によって両者は差別化できているので需要が被ることもないのかなと。
例えば低域の量感とスケールを求めるならD8000、スパッと切れの良い立ち上がりならYH-5000SEです。YAMAHAも標準的に十分な量感は出ています。またD8000のスピード感自体もかなりの速さを持っています。D8000が量感は過剰だと思う方もいるでしょうが、私はこのくらい出ていて欲しい。そういう好みの差です。
温度感は微寒色で、DCAみたいな青い感じは強くなく、むしろ背景の白さが目立つ感じです。また昨日の極端にドライな印象は幾分収まりました。アレはやはりTradutto由来だったのでしょう。(それでも標準と比較すればドライであることは確か)
一方で「余裕のある」どっしり構えた雰囲気はYH-5000SEでは出にくいのかなと感じました。駆動力を奢っても「頑張って鳴らしている」ような、張り詰めた雰囲気が音に漂っています。これも音楽に対するアプローチの仕方で選ぶヘッドホンは変わってくるはずです。疾走感や透明感であったり、今にも消え入りそうな切なさであったり・・・そういう方向はYH-5000SEの方が独自の世界観を出せそうな予感がしました。